デパートの屋上で、泣いている少女が一人。



































ショータイム



































「うう…真宵さまぁ……」





春美は、一人ベンチに座っていた。


トノサマンのショーを見ようと、真宵とデパートに来ていたのだが、


ショーを見終わった後、人ごみの中で真宵とはぐれてしまったのだ。


何とか真宵を探そうにも、春美はまだ子供なため、子連れの大人たちの人ごみの中ではなかなか身動きを取ることができず、


人ごみを抜け出すことがやっとなのだ。


おまけに、春美は倉院の里を抜け出したことがあまりなく、エレベーターのボタンの意味すら分からない。


「わたくし、どうしたらよいのでしょう……」


何とか子供の知恵を絞り、春美は考える。





ふと、あることが思い浮かんだ。


「“なるほどくん”ならこんな時、どうやってこの状況を切り抜けるのでしょうか…。」





“なるほどくん”。





真宵がいつも言っていた、真宵の“助手”のことだ。


春美はその“なるほどくん”になったつもりで考えてみる。


が、何も思いつかない。春美は“なるほどくん”に会ったことすらないのだから、当然といえば当然だが。


「うう…どうすればよいのでしょう……なるほどくぅん、真宵さまぁ……」























「いやー、やっぱトノサマンは強いよな!」


「九太ー、そろそろ帰るわよー」


トノサマンのショーを見終わった直後に興奮する九太に、母親が呼びかける。


九太が抱いているのは、ショーの前に九太が福引きで当てた、トノサマンがプリントされた水色のまりだ。


「あのさぁ母さん、あっちでソフトクリーム買ってきてくれよ。」


「まったく…しょうがないわね。いつものチョコね?じゃあ、買ってくるからここで待っててちょうだい。」


そう言うと、九太の母親は売店にソフトクリームを買いに行った。


「やっぱ、ショーの後はソフトクリームだよな!大人ってホント、こういう時に付き合いいいよな。」





ふと、九太の耳に少女の泣き声が聞こえた。


九太はベンチに座り泣いている春美の姿を見つけると、ベンチにかけよった。


「お、おい…どうしたんだよ?」


「うう…わたくし…真宵さまと…ひっく…はぐれてしまったのです……っ」


泣いている春美を前に、九太は自分も泣き出したいような気分だった。





今、九太の頭の中には二つの選択肢が残されている。





一つは、泣いている春美を見て見ぬふりをして逃げ、母親と家に帰ること。


そして、もう一つは、 自分が迷子になって泣いている春美のヒーローとなり、春美の保護者を探すこと。





今、この少女には自分を危機から手を差し伸べてくれる、ヒーローが必要なのだ。





自分が、トノサマンを必要としているように。











「…っ……あーもう!大人ってこういう時役に立たないよな!」


そう言うと九太は、春美の手を引き階段を下りていった。


「あの扉はなんでしょうか?」


「ああ、あれは迷子センターだよ。」


「あ。でしたらあそこに行けば……」


「はぁ、分かってねーな。あんなとこ行ったら子供の恥だぜ。子供のくせに何にも知らないのな。」


迷子の春美の保護者を探そうと、春美の手を引く九太と、名残惜しげに迷子センターを見送る春美。


こんな状況でも、九太は子供の意地を張っている。


…もっとも、この少女ともっと長く手を繋いでいたいと思うのも本心であるけれど。





「で、なんだっけ?お前の保護者の名前。」


「…真宵さまです。」


「真宵…そいつがお前の保護者か。まったく、大人のくせに何のケジメも」





バシッ!!





「いてっ!何すんだよ!!」


「真宵さまをそいつ呼ばわりするとは……真宵さまとお呼びなさい!」


春美のビンタで赤くなった頬を押さえながら、呆気にとられる九太。


先程まで泣いていた少女と、とても同一人物とは思えない。


九太をしかる口調なども、まるで大人のようだ。


火に油を注ぐ前に、話題を変えた方が無難だと九太は思った。


「そ、それよりその…真宵、さまは、ショーを見た後どこに行くかとか行ってなかったか?」


「…そういえば……」


やっと機嫌が戻ったと、九太は密かに安心した。


「そ、そういえば…なんだよ?」


「真宵さまは、ショーが終わったらおいしいラーメン屋さんに行こうと言っていました。」


「ラーメン屋?」


「はい。真宵さまは、みそラーメンが大好きなのです。」


「それだ!もしかしたらそこに……」





「はみちゃあん!」





「真宵さま!どこですか!?真宵さま!」


春美の表情が急に明るくなった。


春美は、真宵の姿を見つけると、真宵の元へ行こうとした。


「あ!そういえば、母さん待たせてるんだった!おい!」


「え?なんですか?」


「これやるよ。」


そう言うと、九太は持っていたまりを春美に無理やり渡した。


「え?よろしいのですか?」


「ああ。オレが遊ぶと、幼稚だしな。」


「ありがとうございます!あの、お名前は……」


春美はそう言いかけたが、九太はもう走り出していたので、追いつけなかった。











「あ、母さん!」


「九太、どこ行ってたのよ。ちゃんとここで待っててって言ったのに……もうソフトクリーム溶けちゃったわよ。


 …あら?そういえば、あのまりどうしたの?」


「あ、いや、その……ゲームセンターで遊んでる途中、なくしたんだ。」


「えー!?めずらしいわね、九太がトノサマングッズをなくすなんて…。まあ、それなら仕方ないわね……。


 じゃあ、そろそろ帰るわよ。」


「ああ。」


そう言った九太の手には、春美と繋いでいた手の温もりだけが残っていた。


























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暮野美月様素敵な小説ありがとうございました!